「デフ・ヴォイス」(丸山正樹)の書評

書評

ろうに関心のある方、家族にろう者、中途失聴者、難聴者がいる方向け。成人向け。

ろうの世界に触れることができます。

本の概要

丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』

主人公は、ろう者の両親から生まれた聴者(これをコーダ(CODA:Children of Deaf Adults)といいます)。手話通訳士として、ろう者が絡む事件に関わることで、繰り広げられるミステリー小説。

感想(ポイント)

日本手話と日本語対応手話

日本手話と日本語対応手話の存在は、何となく知っていましたが、今回はっきりと認知。私が使うのは日本語に合わせて行う日本語対応手話。デフファミリーが使う手話は日本手話で、日本語の文法とも異なります。日本手話は、言語としての文法がしっかりしているということで、後日勉強したいと思っています。

「ろう」の定義を巡る論争

作中の「デフ文化宣言」による「ろう」の定義の記載に強い違和感を覚えました。調べてみると、「ろう文化宣言」として実際にある話で、以下のように「ろう」を定義しています。

(1)ろう文化宣言での「ろう」の定義は、「ろう者とは、日本手話という、日本語と異なる言語を話す、言語的少数者である」

(2)一方で、医学的には「ろう」の定義は、「聴力が100dB以上の人」。

ここで、グループの構造を整理すると、(2)のグループに、(1)が含まれます。

感じた違和感は、(1)の定義に、日本語対応手話をつかう人が含まれない点でした。

また、仮に「ろう」という名前を、ろう文化宣言に従い(1)に当てはめた場合、(1)以外に属する人は何て呼べばいいのかという疎外感そのものに抵抗がありました。

上記の感情を通じて、「我々は、何かに属していたい/属するのか」という葛藤を抱いていることを認知しました。また、この葛藤が本書の一貫したテーマでもあると読みました。

家族とは

作品の中で、いろいろな形で人と人の絆が描かれます。ありていな言葉ですが、心の絆で結ばれた関係を家族ということを実感し、私たち家族もそうあり続けようと思いました。

著者紹介

著者は、丸山正樹さん。あとがきにもありましたが、手話を学んだことも、身内にろう者がいたこともなく、

「先天性の失聴者の多くは誇りを持って自らを『ろう者』と称する」

デフ・ヴォイス あとがき

この言葉に感銘を受け、小説を通してより多くの人に知ってほしいと執筆したそうです。

誇りをもつ。いいですね。

まとめ

本書では、ろうの世界を覗くことができます。

私は、「ろう者」「聴者」という対等な言葉が好きです。最近では、パラリンピックでの表情豊かな手話通訳が話題になりました。人はそれぞれの特性をもっています。お互いにその特性を認め、尊重し、活かし合う世の中に変わってきていることを実感します。

共に、歩んでいきましょう。

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